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仙台高等裁判所 昭和25年(う)447号 判決

被告人

長島光雄

外一名

主文

原判決を破棄する。

被告人両名を各懲役一年八月及び罰金一万円に処する。

但し、この裁判確定の日から三年間いずれも右懲役刑の執行を猶予する。

被告人等が右罰金を完納できないときは金二百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

訴訟費用中、原審において証人長島武夫に支給した分と被告人長島の国選弁護人阿部義次に支給した分並びに当審において被告人長島の国選弁護人八島喜久夫に支給した分は被告人長島の負担とし、原審において証人太田政弘及び証人青木翠に支給した分は被告人浦住の負担とする。

理由

弁護人八島喜久雄の控訴趣意第二点について。

原審第一回公判期日において検察官の請求により米国陸軍中尉で当時福島情報部の配給係将校であるジョン・ジエー・ケリーが在廷証人として尋問され、その供述は原判決の事実認定の証拠として引用されていること並びに右証人尋問がなされるに当り原審の裁判官は同人に対し、日本の法律の定めるところによつて宣誓をするかどうかを確かめたところ宣誓をしない旨を答えたので、宣誓をさせないで供述させていることは、いずれも、所論のとおりである。しかし連合国の管理下にある現在のわが国においては、同人のような連合国人に対しては、刑事裁判権の行使ができないのであつて、日本の刑事訴訟法も連合国人に対しては適用がないのである(一九四六年二月十九日「刑事裁判権行使に関する覚書」参照)。その結果、本件のように、連合国人であるジヨン・ジエー・ケリー中尉が進んで日本の裁判所の公判廷に出頭して証言する場合にも、同人が宣誓に応じない以上、日本の裁判所は、宣誓をさせないで尋問しなければならないのであつて、しかも、そのなした供述は、「被告人以外の者の公判期日における供述」に外ならないのであるから、それが証拠能力を有することは刑事訴訟法第三百二十一條第二項、第三百四條の規定上明らかであるというべく、このことは、宣誓の趣旨を理解することのできないものに宣誓をさせないで尋問した場合でも、その証言が、なおかつ証拠能力を有するのと少しも異ならないのである。しからば、原判決が右「証人ジヨン・ジエー・ケリーの原審公判廷における供述」を証拠として引用しているのは、本来宣誓をさせるべき証人を宣誓をさせないで尋問した場合とは異なり、証拠能力のない証拠を採用した違法があるとはいいえない。論旨は独自の見解を主張するに過ぎぬもので理由がない。

(註 本件は量刑不当により破棄自判)

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